AIはもうCADを描ける。幾何を難しくしても、腕の差はもう出ない。 30本の統制実験で点差を作ったものは、たった一つ——ライブラリの既定値だった。
間取りを spec.json で完全に与える。測るのは作図能力だけで、設計能力は測らない。
こうすると正解が spec から一意に導出でき、非公開の実図面を必要としない。
「作図注記つきの正解データが手に入らない」という、このベンチが作られてこなかった最大の理由を回避できる。
描くべき線 = (その領域 − 開口) の境界。T字接合のトリムも、開口の小口も、 斜め壁のマイターも、この定義から自動的に出る。作図者の癖が一切入らない。
| 段 | 何を問うか | 状態 |
|---|---|---|
| L0 | DXFとして開けるか | 採点 |
| L1 | 幾何が健全か(壁厚・被覆率・余計な線・レイヤ規約) | 採点 |
| L2 | 寸法が本物か(DIMENSION、作図ブロック、表示される値) | 採点 |
| L3 | 意味が合うか(開口の欠き込み・建具・室名・通り芯・面積) | 採点 |
| L4 | 法規に適合するか(令23条の階段、法28条の採光・換気) | 採点 |
| L5 | 製図の作法(文字の大きさ・線種・図面枠) | 助言のみ |
L2 は「内部の計測値」ではなく「CADが実際に描く文字」を見る。 ここを見落とすと、幾何が完璧で寸法だけ100倍の図面が満点になる。実際になった。
同じ建物で座標の与え方だけを変えた2課題(T002 は数値で全部与える/T003 は通り芯記号から導出させる)を armB で5回ずつ取った。導出させたほうが安定して高かった。設計意図と逆である。
理由は被験者10名の報告が一致していた。T002 でも、壁面・マイター・T字の切り分け・小口は一つも与えていない。
壁芯と厚さだけから全部導出させている。10名全員が45度隅の伸び 60·tan(22.5°)=24.853mm を独立に手で出した。
T003 が上乗せしたのは記号の解決と中央出しで、模型が最も得意な作業だった。
そこで重い部分そのもの——offset して union して subtract する幾何——を変えた課題 T005 を作った。
| T005 で入れた不均一 | 狙い |
|---|---|
| 外壁の厚さが揃わない(W-N だけ150、他210) | 厚さの違う壁が隅で出会うと、外面と内面のマイター点が別の位置に出る |
| 同一直線上で厚さが変わる(120→200) | x=1820 で壁面が段差になる |
| 面芯の壁 | 面が通り芯にちょうど乗り、壁は片側だけに出る |
| 2:1 勾配の斜め外壁 | 45度ではないので暗記した値が効かない |
| 小口の縮退 | 開口の端が壁の端部にちょうど一致する |
課題には歯がある。壁厚を一様と誤読した実装は 79.9%(被覆率 9.2%)まで落ちる。 同じ誤読を T002 でやっても 100.0% のままなので、この落差は T005 が新しく作ったものである。
それでも分離しなかった。
| armB n=5 | 中央値 | 平均 | 内訳 |
|---|---|---|---|
| T002 座標を数値で与える | 100.0% | 98.1% | 100.0 100.0 100.0 99.9 90.8 |
| T003 通り芯記号から導出 | 100.0% | 100.0% | 100.0 ×5 |
| T005 取り合いが一様でない | 99.8% | 98.2% | 99.9 99.9 99.8 99.8 91.5 |
T005 は T002 と区別できない。分布の形まで同じ——4本がほぼ満点、1本だけ落ちる。 そして落ちた1本の原因は幾何ではない(次節)。
厚さ違いのマイターを、5本全部が正確に解いていた。外側 (3724.787, 2805)、
内側 (3555.213, 2655)、斜め壁のオフセット 105/√5 = 46.9574。
斜め壁を x+2y=9100 と立てて法線 (1,2)/√5 で押す解き方まで一致していた。
W-N と W-D の内側マイターは x=3555.213 にあり、I4 の西面 3580 より西にある。 だから I4 は北壁ではなく斜め壁の内面で斜めに切れる——西面 y=2642.606、東面 y=2582.606。 仕様の注記は一言も触れていない。5本全員がこれを危険度1位に挙げ、 「参照解が素朴に北壁で止めていたら食い違う」と書いた。 union の定義がそのまま同じ答えを出すので、参照解も一致していた。
ezdxf.new(version, setup=True) が作る EZDXF という寸法スタイルが、
既定で dimlfac=100.0 / dimtxt=0.25 を持っている。
メートルで描いてセンチで表示する図面の想定である。仕様は mm。
dimlfac を書いていない。
ライブラリが推奨する自前のスタイルを素直に使っただけ| 結果 | 使った dimstyle |
|---|---|
| DIMLFAC=100 で失敗(5件) | EZDXF(既定のまま) |
| 通過 | 自前の dimstyle を作る/既定を疑って dimlfac=1.0 に上書き |
踏まなかった腕は明示的に書いている——「EZDXF はメートル1:100前提なので、そのまま使うと 910 が 『91000』と表示されて全滅します。ここが今回いちばん怖い」。
一方で、こちらが難しくしようとして入れたもの——45度でない斜め、厚さの不一致、面芯、小口の縮退——は 一つも点差を作らなかった。模型は解析幾何を正確にやる。
T004(法規判定つき・満点177)を3腕とも5回ずつ取った。点の高低より、失敗の形のほうが実務に効く。
| 腕 | 中央値 | 最悪 | 最悪のときに何が起きるか |
|---|---|---|---|
| armA 生DXF | 94.2% | 0.0% | 6,927行のうち1行の余分な 0 でファイルごと死ぬ。すぐ分かる |
| armB 一発 | 99.6% | 91.1% | 開くし幾何も法規も完璧で、寸法だけ100倍。印字を読むまで分からない |
| armC 検証ループ | 100.0% | 97.2% | 全損も意味の誤りも出ていない |
ライブラリは破滅的な失敗を消す代わりに、静かな意味の誤りを持ち込む。 armA の 0点は、生き残った実行が全部「自分の出力を読み返してチャンク境界を自己監査していた」のに対し、 死んだ実行だけがそれをしなかった結果だった。実行環境の無い腕にとって、唯一の検証手段は読み返しである。
| 腕 | 出力トークン/回 | ツール呼出/回 | 中央値 | 最悪値 |
|---|---|---|---|---|
| armB 一発 | 107,929 | 9.2 | 99.6% | 91.1% |
| armA 生DXF | 131,505 | 20.6 | 94.2% | 0.0% |
| armC ループ | 184,379 | 57.6 | 100.0% | 97.2% |
armC は armB の 1.7倍のトークンと 6.3倍のツール呼び出しを使う。 買っているのは中央値 0.4ポイントではなく、最悪値 91.1% → 97.2% のほうである。 「たまに寸法が100倍で出る」を「出ない」に変えるために払う額、と読むのが正しい。
この穴が本当に空いているかを潰しにいった記録。
DIMLFAC/テキスト上書き」を文書化している。
しかし自動検出は無い。DIMREASSOC も QSELECT も手動起動で、手打ち上書きしか捕まえず、
DIMLFAC は構造的に見逃すDIMLFAC=100 の図面を満点で通す(実証済み)AIはもうCADを描ける。図面の中の「数字どうし」を照合する商品はある。 しかし「数字と線」を照合するものは、まだどこにもない。
このシリーズは「参照解を自分で書かない」を掲げている。通関は税関の事前教示回答、税務は国税庁の質疑応答事例が 答えを持っている。cad は違う。答えは spec から決定論で導出されるので一意だが、 「何を検査項目に選び、何点を配るか」はわたしの判断である。そこを項目単位で開示する。
| 出自 | 配点 | 根拠 |
|---|---|---|
| 法令に直接の根拠 | 39 | 建築基準法施行令23条(階段)、法28条1項・2項(採光・換気) |
| 公的チェックリストの型 | 63 | 千葉県 照査項目 4-10(壁厚を名指し)/4-5/4-7/4-11/5-1 |
| JIS A 0150 | 20 | 10章「位置の表示」=通り芯/12.4「図に対する文字の位置」=室名 |
| JIS Z 8317-1(半分) | 5 | 3.3.2 注記2「寸法の単位は長さではミリメートル」。ただし「1:1で描く」は CAD の運用慣行 |
| 根拠が見つからない | 50 | レイヤ規約・被覆率・建具符号。JIS にレイヤという概念そのものが無い(1999年の規格) |
規格に当てにいった結果、採点器の誤りが3件出た。
「通り芯は一点鎖線」は JIS A 0150 10.1.1 が「基準線は通常、実線」と定めており、規格に反していた。
「符号は丸囲み」は条件付きを必須にしていた。「文字は2.0mm以上」は
Z 8313-10 の呼び(漢字3.5/仮名2.5)のどれにも無い値で、しかも MTEXT を見ていなかった。
この3件が、L5 における腕の差をすべて作っていた。規格どおりに直すと、 12提出と参照解の計13ファイルが完全に横並びになる——L5 は腕を1ミリも分離していない。 「手書きの腕は高くつく作法を落としている」という所見は撤回した。
| 種別 | 内容 | 見つけた経路 |
|---|---|---|
| 採点器 | 空の作図ブロック1個を全寸法で共有すると L2 が満点になる(CADには何も描かれない) | 被験者の正直な自己申告 |
| 採点器 | 通り芯の一点鎖線を要求(JIS は実線が通常) | JIS A 0150 |
| 採点器 | 符号の丸囲みを必須化(JIS は条件付き) | JIS A 0150 |
| 採点器 | 文字高 2.0mm(呼びに無い値)+ MTEXT を見ていない | JIS Z 8313-10 |
| 採点器 | resolve() が壁ごとの厚さを黙って捨てる。参照解が全部既定値で描かれていた | T005 を作って発覚 |
| 採点器 | 小口の除外に全体の壁厚を使い、それより厚い壁の小口を壁面と誤分類 | 参照解が自分の検査に落ちた |
| 主張 | 「一番弱いはずの armA が一番強い」——n=1 の 100% は分布の上端だった | n=5 |
| 主張 | 「座標を与えれば転記の課題になる」——T002 も転記ではなかった | n=5 |
点数を眺めていて出たものは、一つも無い。
作図能力は飽和している。測れるのは、図面が外の世界と食い違っていないかのほうである—— 申告した建具表と図面、ライブラリの既定値と印字される文字、規格と作法。 これは cad-bench 自身の設計思想(設計と作図を分離して作図能力だけを測る)を否定している。